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RAS/MAPK症候群の臨床症状・原因遺伝子について

ヌーナン症候群・LEOPARD症候群・コステロ症候群・CFC症候群とは?

心奇形・骨格異常・特異的顔貌・精神遅滞などをもつ先天奇形症候群です。これらの疾患は類似しているために、確定診断のために遺伝子診断が有用なことも多いです。

ヌーナン症候群
病因・
病態生理
細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPKの構成分子であるPTPN11, KRAS, SOS1, RAF1,SHOC2 遺伝子異常による。これらの遺伝子異常の頻度はPTPN11(40%), RAF-1 (4-17%), SOS1(8-14%), KRAS(5%>)となっている。2009年にloose anagen hairを伴うNoonan様症候群にSHOC2遺伝子変異が報告された。また頻度はまれであるがNRAS遺伝子変異も同定された。
発生頻度 海外の論文では1000-2500人に一人であるが、日本では10000人に一人程度であると考えられているが実際の頻度は不明。
症状・診断
顔貌 特徴的な顔貌眼間解離、眼裂斜下、眼瞼下垂など
心臓 肺動脈狭窄、心房中隔欠損症, 肥大型心筋症など
骨格系 翼状頸、外反肘、胸郭異常など
発育・発達 低身長。精神運動遅滞は軽度から無し。
皮膚 色黒
腫瘍 時にJMML(juvenile myelomonocytic leukemia)をはじめとした白血病を合併。
その他 停留精巣、出血傾向(第XI因子の部分欠乏、血小板減少症など)、感音性難聴、胎児水腫をしばしば伴う。
LEOPARD症候群
病因・
病態生理
細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPKの構成分子であるPTPN11,RAF1,SHOC2 遺伝子異常による。PTPN11遺伝子のエクソン7,12,13の遺伝子変異を有する例が80%程度である。PTPN11遺伝子変異陰性のLEOPARD症候群の6人中2人にRAF-1の遺伝子変異が同定された。
発生頻度 世界で200例程度とされている。日本での報告は数例程度である。実際の頻度は不明。
症状・診断 LEOPARD症候群はmultiple lentigines(多発性黒子)、electrocardiographic conduction abnormalities (心伝導障害)、ocular hypertelorism (眼間解離)、 pulmonary stenosis (肺動脈狭窄)、abnormal genitalia (外陰部異常)、 retardation of growth (精神遅滞)、sensorineural deafness (感音性難聴) の頭文字を並べて命名された症候群である。すべての症状が必ずしも合併するわけではなく、症例によりバリエーションも高い。
顔貌 眼間解離はほぼ全例で、平坦な鼻梁、耳介変形は87%に見られる。
心臓 心電図異常(約75%)、肺動脈狭窄(10-20%)、肥大型心筋症(心臓異常のある患者の80%に合併)がある。
骨格系 成長障害、胸郭異常(75%)
皮膚 黒子は4,5歳で出現し、思春期になるまでに1000個程度にまで増える。カフェ・オーレ班は約半数にある。
腫瘍 数人の患者に報告がある(myelosdysplasia、急性骨髄性白血病、神経芽細胞腫、悪性黒色腫)。
その他 両側停留睾丸(男児の50%)、軽度学習障害(30%)がある。
コステロ症候群
病因・
病態生理
細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPKの構成分子であるHRASの異常による。
発生頻度 日本では2005年から2008年の間で、約30人が遺伝子診断された(青木ら、未発表データ)。
症状・診断
顔貌 特徴的な顔貌
成長 出生時はLFDの場合もあるが、その後は成長障害・低身長がみられ、相対的に頭囲は大きい。
心臓 肥大型心筋症(40%)、不整脈(42%)、肺動脈狭窄など
皮膚 手足の深いしわ、色黒、角化、柔らかく緩い皮膚、カールした毛髪、乳頭腫
骨格系 足関節の位置異常(内反足、外反足)、アキレス腱の硬化、柔らかい手指、肘やひざの関節開排制限
発育・発達 哺乳摂食障害、乳児期の強い人見知り・過敏性、精神運動発達遅延、成長すると社交性あり。けいれん、Chiari奇形の合併。
腫瘍 約10%に合併。乳児期に横紋筋肉腫、神経芽細胞腫、学童期以降に膀胱腫瘍
その他 新生児の低血糖、成人期の骨粗鬆症。
CFC(cardio-facio-cutaneous)症候群
病因・
病態生理
細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPKの構成分子であるKRAS, BRAF, MEK1, MEK2 遺伝子異常による。これらの遺伝子異常の頻度はKRAS(5%>)、 BRAF(~50%)、MEK1/2(~15%)となっている。
発生頻度 日本では2005年から2008年の間で、約30人にKRAS, BRAF, MEK1/2いずれかの変異が同定されCFC症候群と診断されている(青木ら、未発表データ)。
症状・診断
顔貌 特徴的な顔貌。側頭部の狭窄、眉や上眼瞼部の低形成が特徴的。
心臓 肥大型心筋症、心房中隔欠損症、肺動脈狭窄がある。
発育・発達 精神運動遅滞は4疾患のうちで最も重度で、けいれんを合併することもある。
皮膚 カールした脆弱な毛髪、手足の緩い皮膚、しわの深い手掌・足底、色黒、角化、黒子、色素班
腫瘍 合併はまれ。2009年までに急性リンパ性は白血病が2例に、肝芽腫が一例に合併。
その他 精神遅滞の重度なヌーナン症候群と診断されている場合が多い。歩行を獲得できず、重症心身障害児(者)施設入所の人もいます。